2016年02月28日

アレルギーとの関与が色濃くなってきた菌とのつきあい方

i)菌との関係が免疫機構の構築に関与している
さて、前述のように、様々にアトピーの原因は考えられていますが、原因要素の中の核とされるものが、内的要因の[3]免疫の問題です。
なかでも、2にあげる、アレルギーをおこしやすい免疫機構の獲得プロセスについての研究がすすんでいます。
アトピー性皮膚炎へと繋がる原因が遺伝的なものだけであれば、ここ数十年での爆発的な患者数の増加は説明できません。そこで注目されるようになったのが、遺伝以外の要因によって、アレルギーを起こしやすい体質が導かれたのではないか、という仮説です。

再び注目される衛生仮説
今から、およそ四半世紀ほど前の、1989年、イギリスのStrachanらは、「先進諸国でアレルギーが増加しているのは、小さい頃に感染を経験しなくなったからだ」という研究結果を発表しています。いわゆる「衛生仮説」と呼ばれるものですが、当時はその裏付けが弱く、あまり肯定的に扱われなかったようです。
しかし、現在、様々な実験や統計などから、この仮説は通説として扱われるようになっています。では、小さいころの細菌感染がどのように私たちの免疫バランスに作用しているのでしょう。

成長過程での細菌感染が、免疫バランスの要「Th1/Th2バランス」を補正する
前に、免疫の攻撃方法を判断する「T細胞」についてご紹介しました。実はT細胞は一つの細胞ではなく、複数で構成され、判断すると考えられています。さらにT細胞にはTh1とTh2という2つタイプがあります。Th1は細胞性免疫を、Th2は抗体を作る体液性免疫を誘導する働きをもつとされ、これらは、互いに拮抗した関係にあることで、バランスのよい判断ができるようになっています。(※T細胞には他にも種類があります)
さて、T細胞はもともと骨髄で生まれます。そこから胸腺という心臓の後ろにある器官に運ばれ、ここで将来、免疫の指令塔として働くよう厳しく選別、教育されます。胸腺では、厳しい選別が行われ、そこで鍛え上げられたT細胞は、やがて胸腺を出て血流循環にのり、体の各部にあるリンパ節へと入って行きます。このリンパ節で、T細胞は受けとる刺激によって最終的にTh1あるいはTh2に分化し、これらが量的に勢力争いをすることで、免疫の指令塔としてバランスのよい判断ができるようになります。
このTh1とTh2のバランスは、生まれる前と後で大きく変わります。母親のお腹にいる赤ちゃんの体内では、Th2が優位の状態です。子宮内は基本的に無菌状態で、細菌感染の恐れは非常に小さくなっているのです。それが、出生後、少しずつ、さまざまな菌の曝露を受けたり、あるいは母乳に含まれる成分の作用により、Th1に分化するT細胞が増えていきます。最終的に、Th1とTh2のバランスは同等、あるいはTh1がすこし優位にまでなるといいます。T細胞の教育器官である胸腺の発達は10代にピークを迎え、やがてしぼんでいきます。
生後から成長期にかけてTh1/Th2のバランスが整っていくことで、自他あるいは有害無害の適正な判別ができるようになるわけです。Th2が大人と比べてまだまだ優位である子供時代は、それだけ免疫の判断が偏り易く、無害のものにもアレルギーをおこしやすい、といえるのです。
さて、衛生的となった社会では、この細菌感染の機会が減り、成長の過程で出遭う菌が少ないために、Th1の勢力が育たず、いつまでもTh2優位でいる人が増えたのではないか、と考えられています。そのため、現代人はアレルギーをおこしやすいのだ、と考えられているのです。

【Column】生後はじめての菌感染源は母親
赤ちゃんの細菌感染は、多くの場合、母親を介して行われます。腸内細菌においても、母親から感染する、という説が有力です。母親が悪玉菌優勢の状態で出産すると、産道をくぐったとき、新生児が母親の悪玉菌に曝露し、これがやがてアレルギーの発症に関わってくる、とする専門家もいます。現在では産前の母親のプロバイオティクスの重要性が強く呼びかけられています。
さらに、新生児の腸内環境や免疫の発達を考えると母乳育児も重要である、とする医師もいます。母乳は、赤ちゃんの未熟な腸管をやさしく育てるとともに、母親の女性ホルモンである「エストロゲン」や「プロゲステロン」が含まれており、エストロゲンはTh1を、プロゲステロンはTh2を促進する働きがあり、赤ちゃんの未熟な免疫を支えている、と考えられているのです。



ii)成長後の免疫の主体は腸にある。第二の脳:腸
ご紹介したように、新生児期〜幼少期のころに、多くの菌と出会うことが、むやみにアレルギーを起こさない免疫機構の構築に重要であり、幼少期に培われた正常な免疫バランスは、生涯にわたり健康に影響しつづける、と考えられています。実際、T細胞の教育に大きな役割を果たす胸腺は、思春期以降しぼんでいってしまいます。では、思春期以降、大人になってしまった体では、もはや正常な免疫機構の構築はできないのでしょうか。
T細胞の中には肝臓や脾臓、腸管など胸腺以外で分化するものもあります。これを「胸腺外分化」といいますが、幼少期以降は、このようなT細胞も活躍しはじめます。
中でも、腸管には免疫細胞の6割が存在しているとされ、胸腺の成長が終わった体内では、この腸が、第二の脳として免疫に大きく関わってきます。
腸は主に食物の消化、栄養の吸収をする働きがありますが、強力な胃酸でも死なないような細菌が侵入してきた際にそれを感知するための機能も持っています。小腸には、パイエル板、腸管上皮、そして粘膜固有層、そしてこれに繋がる腸間膜リンパ節などの免疫系があり、さらに、大腸には、孤立リンパ濾胞、シーカムパッチなどといった免疫系があります。口から入ってくる、多くの栄養物以外の侵入物を、こうした二重三重のバリアシステムで防御しているのです。

腸内にどんな菌を棲まわせるかで、Th1/Th2バランスが補正できる
腸管内では複雑に組み合わせた免疫システムで、体に必要なものか否か、あるいは敵か味方かを区別するわけですが、そこに大きく関わってくるのが、腸内に棲む細菌です。腸管内は、腸壁から分泌される粘膜で覆われていますが、この粘膜には、外からやってきた細菌が棲み付きます。前述したように、最初の細菌感染は主に母親との接触から、と考えられており、腸内細菌においても、授乳などの過程でもらいうけると考えられています。身近な人と共生できる菌であれば、赤ちゃんにも無害なことが多いでしょう。こうして、無害な菌、あるいは有益な菌との出会いを日々繰り返しながら、やがて腸内に棲み付く菌が増えていきます。腸内細菌と腸管の細胞はその働きや生成物のやりとりのうえで、互いに共益な関係であることが多く、適した栄養をもらいながら、赤ちゃんの腸内では腸管の成長とともに腸内細菌も勢力を増して行きます。やがて、腸管が成長し、また腸内細菌が健全なバランスに保たれていると、食物の消化吸収がスムーズに行われるだけでなく、その生成物によって全身の細胞に必要な栄養が得られるようになるのです。
腸管内の環境が健全であると、腸管内に存在する免疫細胞の判断も健全に行われるようになります。自己と非自己だけでなく、栄養物とその他の判断もきちんと行えるのです。腸管内の細菌が少なかったり、悪玉菌が繁殖していたりすると、腸管内の免疫細胞も判断を誤り易くなると考えられています。
現在、具体的にどんな腸内細菌が免疫バランスに影響するのか研究がされていますが、近年ではグラム陽性菌というタイプの菌が繁殖すると、Th2に傾いていた免疫細胞の働きが、Th1側へとシフトすることが発表され、非常に注目されています。腸内環境を整えることで、免疫バランスを補正できる可能性があるのです。

【Column】大人になっても胸腺は細々と働き続けている
前に、思春期以降は胸腺はしぼんでしまう、と述べましたが、実はしぼんでしまうだけで、大人になっても胸腺はT細胞の教育器官としては働き続けます。もちろん、その働きは、幼少期に比べればはるかに小さくなってしまいますが、しかし働きを止めてしまうわけではありません。最近の研究では、胸腺の働きは老齢期に入っても続いていて、この働きの強弱が老齢期の免疫力の個人差に繋がっている、とも考えられています。

抜粋:
ヒールファクターズ・ラボ著「アトピー考察ノート」第3章:アトピーの原因としくみ より

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